わらしべ長者な物語
先週、73歳の現役大工さんを取材するため、ご自宅を訪問した。
玄関を上がればそのまま居間に通じ、床の中央には囲炉裏が鎮座ましましている。
清流で獲れたイワナを肴に熱燗でキュ〜と一杯、なんて最高だろうな。実に贅沢な空間だ。
神社の祭典などに奏上する、竹の横笛を趣味で自作されている。ご自分でも吹かれるそうだ。前もって拝見した作品は、見た目にとても美しかった。
そのお話を動画に収めようと、仕事から帰宅される夜の7時にお邪魔する。
これまでに数10本。素材から厳選し、音程を正確に調整した笛を作ってこられた。
でも、いま手元に残っているのは1本だけ。後はみんな、欲しがる人たちに無償で提供したという。
話を聞けばこの方、笛作りだけが趣味じゃない。
奥に通されると、仕切られた2つの空間にはメダカとクワガタの養殖場が広がっていた。
厳密に温度管理された室内に、クワガタの幼虫300匹余りが繁殖している。
ゼリー状の餌を用意し、容器にためた土中から地上に上がってくるまでの長い時間、弛まぬ管理が続く。
一時期のブームは去ったといえ、それなりのルートで販売すれば結構な売り上げになりそうだ。
だけどこの方、せっかく労力とコストをかけて育てたクワガタやメダカを、全部欲しがる人にあげてしまうという。
「持っていくか?」と僕も聞かれたが、生き物を育てる嗜好は元から無い。丁重にお断りすると、とても残念そうな顔をされたっけ。
囲炉裏の間に戻れば、部屋の隅に魚群探知機を見つける。聞けば凍った冬の諏訪湖までワカサギ釣りに出かけ、この装置で生息ポイントを探るんだとか。
その際使用するお手製の釣竿を拝見したが、こちらも実に見事な出来栄えだ。
つまりこの方、本業以外の趣味はいずれも、プロかセミプロ並みの力量なのである。
かつては数基のお神輿までこしらえたそうだが、町に「貸した」まま帰ってこないという。「今でも町の施設に飾られてるよ。みんなが喜んでくれれば良いんだぁ」。
その笑顔、やけに眩しい。
自ら生み出したものを、なんの見返りも求めず与え続けた半生。何か、神様からのご褒美はなかったものか。
「この家、タダでもらったのさ。(付き合いある建設会社)社長の、別荘だったんだよ」。
なるほど。人生、結構バランスとれてる。
明日は「スナックキズツキ」に話を戻す(つもり)。