小さくて静かな日常の物語

傷ついた人だけが辿たどり着ける店「スナックキズツキ」。
ドラマは毎回、日常に生じるいくつものわだかまりを抱えた人たちがやってくる。

最初に店の扉を開くのは、企業のお客様センターに勤める中田さん(成海璃子)。
今日も通販商品のクレーム対応に消耗している。電話の向こうで、届いた商品に文句をつけている安達さん(平岩紙)。彼女もまた、心にキズを負った一人の女性。「私ばっかり損してる」彼女は、第2話の登場人物でもある。

それでも今夜は、楽しみにていた恋人との食事。「彼に会えるし・・・」と、中田さんの気分は和らぐ。

仕事に追われ、待ち合わせ時間に遅れてやってきた彼は、食事のメニューも週末の予定も、自分のことばかり。
空腹なはずの彼女にオーダーは確認せず、自分は腹が減っていないと、だし巻き卵ともろきゅうを注文。予定のない今度の日曜日に話題を振っても、友達とドライブの約束を持ち出し、まるで取り付く島もない。
「なんか、話題ないかなぁ・・・」甘い時間も持てず、早々に彼と別れた中田さんの心には、虚しさばかり広がっていく。

そうして訪れたスナックキズツキは、スナックなのにアルコールがない。
店主のトウコ(原田知世)ひとりの店内は、昭和レトロで落ち着く雰囲気。
注文したソイラテに中田さんは、「ほろ苦いコーヒーとまろやかな豆乳、からだに沁みる」と、徐々に気持ちもほどけていく。

「ウチはカレーも美味しいよ」
トウコの勧めにオーダーすれば、「あ、私好みの辛さ。思っていたよりスパイシー。黄身と混ぜるとマイルド。これもいいなぁ、美味おいしい」

食事が終わり、おいとましようと腰を上げかけると、ママがギターで生カラオケの用意。
「はい、マイク」
「何を歌えばいいんですか」
「今のアンタの気持ちだよ」

♪ 私は”アナタ”じゃない 中田だ コールセンター 最初に名乗ってるのに 誰も聞いちゃいないのさ
付き合って2年のカレ いつも自分のことだけしゃべってる 会った後はうらさみしい そう わびしいのさ ♪

「なぜ歌った?私。でも、楽しかった」

翌日、少し軽くなった心で仕事に励む中田さん。表情も明るくなって、数多あまたお客様の声に対応していく。

以上が「スナックキズツキ」の第1話。今ならTVerで、無料視聴が可能だ。
長々とあらすじをつづったのには理由わけがある。
物語の世界観や映像の作りに、僕なり思うところがあるからだ。

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