家に帰る
先日撮った、息子夫婦の動画を編集する。挙式は当面行えないため、衣装だけのスタジオ撮影に同行したのだ。
すべての主導権は依頼したスタジオ側にあり、モデルにポーズ一つ要求するのも簡単でない。
写真撮影が済めば、即移動。こちらとしては、やり直しのきかない1回勝負となる。
常にカメラマンの邪魔にならないポジションも気にかけねばならず、三脚なんて悠長なものは使えない。
手振れが気になったが、どうにか見られるレベルに収まっていた。これまでジンバルに頼らず修行してきた甲斐が、あったというものだ。
本当ならここで公開したいところだが、完全なプライベート故、それも叶わない。
僕の商売(今回は商売じゃないが)のデメリットは、個人に特化した動画が多く、一般にはなかなか披露できない点だ。
じゃあ、なんでわざわざここに記すかと言えば、BGMに故・青田ケンイチの「BACK HOME」を使用させてもらったためだ。
むしろ今回は彼の歌に合わせて、全体を構成していった。
青ケンが突然世を去って、もう半年近く経つ。
どういう巡りあわせか葬儀の1か月後、彼の歌が人材派遣会社の㎝ソングとして流れた。視ている間、じーんと鼻の奥が痺れたっけ。
出来たら生きているうちに、実現してほしかったとは思うけれど。
亡くなった直後は、まるで実感がわかなかった。スタジオ2階の自室の布団に、寝たままの状態で発見されたという。
苦しんだろうか。むしろ眠ったまま、本人も自覚なく旅立ったのだと思いたい。
今になって、寂しさは募る。
実質はわずか数か月の、短い付き合いだった。でも今も生きていたなら、数10本におよぶ彼の動画が撮れていたはずだ。
心臓に持病があるとは聞いていた。それでも40を少し過ぎたばかりの逝去は、あまりに短くはかない。
近く結婚するはずだった青ケンの彼女さんに、完成した動画を送った。この方も亡くなってしばらく、生前の彼の姿は見られなかったらしい。でも、歌だけならいいだろう。
青田ケンイチ「BACK HOME」↓
お世辞にも、美声とは言えない。むしろだみ声に近いだろう。
でも曲に合わせて動画を編集している間、なぜか涙が止まらなかった。
思い出や追悼からの涙じゃない。やっぱり青田ケンイチの歌には、聴く者の心を揺さぶる魂が、ちゃんとあったということだ。
取り戻しようのない過去を優しく振り返り、いつしか失意や絶望を超えて、一人生きる明日へと希望をつなぐ。
形はいくら変わろうと、肉体は滅びようと、目には見えぬ変わらない”思い”はいつまでも続いていくんだよ。それが彼の、あちらからのメッセージのように響くのだ。
「キミが帰れますように」なんて歌っていても、本音はきっと「僕が帰れますように」じゃなかろうか。
彼女さんからは、心のこもった返信を頂いた。
今日は偶然、青ケンが見出したアーティストのライブがあるそうだ。彼の遺影を胸に、出かけられるとのことだった。
きっと喜ぶだろうな。
姿は見えずとも、彼女や近しい人たちの心の我が家に、彼はちゃんと、今日も帰っていくだろうから。