人間不信

日本民間航空きっての名パイロットだったアンヌの叔父が操縦する旅客機が墜落事故を起こした。
列車衝突事故、タンカー爆破、ライフル魔、そして、旅客機墜落事故と北川町の住人が中心となる事故・事件が続発。
フルハシとソガが基地の作戦室で突然暴れだした時に吸っていたタバコを調べたことによって、事故・事件の原因が北川町で販売されたタバコにある事が判明。
問題のタバコが買われた販売機にタバコを補充しにきた男を追ったダンは、アパートの一室でメトロン星人と対峙する。
メトロン星人は、ダン=ウルトラセブンを円盤に乗せ、宇宙に追放しようとするが、ダンはセブンに変身。
ウルトラセブンによって巨大化したメトロン星人は倒され、円盤もウルトラホーク1号に撃墜され、メトロン星人の地球侵略計画は失敗に終わった。(ウルトラセブンの謎を徹底的に考察・研究 第8話『狙われた街』の謎を解き明かす より)

監督は実相寺昭雄。
『屋根裏の散歩者』『D坂の殺人事件』『鏡地獄』など、江戸川乱歩の異常性欲ものを、何篇なんぺんも手掛けている。
『悪徳の栄え』では、晩餐ばんさんにナマコを丸かじりするお姐さんのシーンが印象に強い。日本には珍しい、ヨーロッパ型のヘンタイ監督である(もちろんめている)。

第8話で有名なのは、ぼろいアパートに踏み込んだダンがメトロン星人と対面するシーン。
3畳か4畳半程度の畳の上で、ちゃぶ台をはさみあぐらをかいて対話を始める、そのシュールさ。

この話は、モロボシ・ダン(=ウルトラセブン)とメトロン星人の宇宙人同士が畳敷きの部屋でちゃぶ台を挟んで会見するシーンで知られるが、当時のTBSはウルトラシリーズについては海外への作品の輸出を視野に入れたうえで番組製作を行っており、日本を思わせるものは極力入れない方針であった。それゆえ、製作開始時の申し合わせに際しても、関係者に対してこのことは厳守するように伝えていた。しかし、実相寺はこのことをあえて無視して劇中にちゃぶ台を登場させ、「局のプロデューサ交替時、どさくさ紛れに撮影した」「あとで散々文句を言われた」と回想している。撮影時は畳に座り込んだダンとメトロン星人の姿があまりにシュールで面白くスタッフも大爆笑し、本人も「自分も『用意、スタート』と掛け声を掛けられないほど笑ってしまい、助監督に代わりに言ってもらった」という(ウィキペディア(Wikipedia)より)

全編、演出がすごい。
たとえばメディカルセンターの場面。人物が画面下4分の1ほどに収まり、余白が広く取られている。無機質で近未来的な描写は、キューブリックの『2001年宇宙の旅』や『時計じかけのオレンジ』を連想させるが、わずかに実相寺監督の方が、先行しているのではないか。

警察署の廊下や取調室・アンヌの伯父邸の室内も暗く、人物はほぼ逆光のシルエットだ。
この辺りの演出は、ヨーロッパ映画の影響を感じさせる。ここに和の象徴・畳を登場させるのは和洋折衷わようせっちゅうというより邪悪そのものであり、一流のみが持ち得る美学というべきだ。

独特の撮影法は「実相寺アングル」と呼ばれ、これに影響された人物の一人が庵野秀明あんのひであき監督とのこと。
彼の監督した「新世紀エヴァンゲリオン」や「シン・ゴジラ」などに、この手法が使われているという(「シン・ゴジラ」は観たけど、まるで気づかんかった)。

ストーリー展開は、さらにエグい。
ウルトラセブン全編を通じて言えるのは、当時がアメリカ対ソ連の冷戦下にあり、世界革命をもくろむコミュニストの影があちこちに垣間見えることである。
宇宙人のアジトが朽ちかけたアパートの1室なんて、連合赤軍や東アジア反日武装戦線を彷彿ほうふつとさせるではないか。
近くを流れるドブ川の描写も見事だ。当時を知る年代として、ヘドロ漂うあの異臭の記憶が、そのままによみがえってくる。

第三者の企てによって飛行機が墜落したり、猟銃を無差別乱射したりなど、当時の世相と不安も色濃く反映している。
タバコを吸って人が変わり、同胞を突然攻撃させて仲間割れを誘発するなど、”タバコ”を”思想”に置き換えれば、今もそのまま通用するリアリティだ。
レーニンやマルクス、トロツキーやスターリンなどから、今の対象が中国共産党に変わったまでのことである。

締めくくりのナレーションはこうだ。

「メトロン星人の地球侵略計画はこうして終わったのです。人間同士の信頼感を利用するとは、恐るべき宇宙人です。でも、ご安心ください。このお話は遠い遠い未来の物語なのです。え?何故ですって?我々人類は今、宇宙人に狙われるほどお互いを信頼してはいませんから」

宇宙人の方が、人類よりはるかに純粋かもしれない。

※ ウルトラセブン 第8話 Ultraseven Episode 8  で検索すると、全編がみられます。

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