夢の国をエアー旅する物語

40年前、語学研修の名目でフィンランドに1ヶ月ほど滞在した。
かつての首都Turku(トゥルク)にある、Paasikivi-Opisto(パーシキヴィ・オピスト)という大学だ。
ネットで見たら、今もちゃんと現存していて嬉しくなった。

何を学んだかなんて、覚えちゃいない。
短いバルト海の夏(フィンランドは正確には北欧じゃない)、深夜12時を過ぎても陽の沈まぬ白夜びゃくや、フィンランドを代表する度数50%のウォッカKoskenkorva(コスケンコルヴァ)をあおっていた。今なら、一口すするのだってキツかろう。

フィンランドは母国語で、Suomi(スオミ)という。
語源はわからないけれど、「湖沼」を意味するsuo(スオ)と、「森」を意味するmetsä(メッツァ)の合成語と解釈すれば、「森と湖」という国の代名詞そのものになる。僕は勝手に、それが由来と信じている。

スオミは、お伽話とぎばなしの国だ。現実とは思えないほど、全てが美しい。森を散策さんさくすれば、妖精(ムーミン)の実在を確かに感じる。
何より、上高地かみこうちなど特定の場所でしかぐことの出来ない醇乎じゅんこたる空気がどこにいても肺を満たしてくれるのだから、贅沢の極みという他ない。

滞在する間、日本になんか帰りたくないと思った。時間ときの流れが、同じ地球とは思えないほどにゆったりと過ぎる。なのに手持ち無沙汰などは微塵みじんも感じさせず、一瞬一瞬を満たす充足感は、例えようもない。

おそらく、暗くて長い冬のフィンランドを知らない旅人だからこそ、そう感じたまでだろう。
でも、いいんだ。僕にとってスオミは、消えない夢の中の出来事のまま心のうちにある。

テレビ東京 ドラマ24「スナック キズツキ」に、首都ヘルシンキが再現される。
トウコ(原田知世)が口にするkahvitauko(カハヴィタウコ)。フィンランド語で、コーヒーブレイクを意味する。
こんな単語を口にするトウコは、かつてフィンランドを旅したことがあると、来店したサトちゃん(塚地武雅)に伝えるのだ。

「雇用主は、その被雇用者の保有する珈琲コーヒーを摂取する権利を、剥奪はくだつすることは許されない」これはれっきとしたフィンランドの法律だ。
フィンランド人は1日に4〜5杯コーヒーを飲み、一人当たりコーヒー消費量は世界一と言われている。
大した粉を使っていなくても、あの空気の中で味わうコーヒーは格別だった。

すっかり僕は、このドラマにハマってしまった。不思議とオンナの色香を感じさせない、知世ちゃんの浮世離れした役柄にメロメロなんである。
あと何話、続いてくれることだろうか。

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