伝家のほうとう

今日は久しぶりに遠出した。神奈川県大磯町まで、一人暮らしの義父のご機嫌伺いに出向いたのだ。
前回お会いしてから、2年近くが経過している。遠出同様、こちらもずいぶん久しぶりだ。
午前11時過ぎに出発し、高速料金をケチるため国道1号線をひた走る。先方に着いたころには、午後1時30分を回っていた。

もっとも、現役の頃から東名も新東名も好きじゃなく、時間に余裕があるときは必ず、下の道を走ったものだ。
あの頃は、帰社しても用がないと見切ってしまえばわざわざ遠回りして、うねうねして時に方向も定かでなくなる田舎道を、ゆったり行くのが好きだった。
迷子になると、焦る反面わくわくもする、変な性格が幼少期よりある。
気づけば静岡県内で、通ったことのない道の方が珍しいほど、わき道・寄り道人生を、僕は過ごしてきたことになる。

そして今や、清水の自宅から娘の暮らす愛知県春日井市までも、一般道をひた走る。
最短でも5時間程度。休み休み行けば、朝出発して到着するころには日が暮れている。ある意味、贅沢で優雅な時間の過ごし方だ。
毎日の仕事に追われていたら、とてもじゃないがこんな”無駄な”過ごし方はできない。

80歳を過ぎて再会した義父は、こんにゃく畑などの耕作と加工・販売にまでいそしみ、今も裸眼で片側0,7の視力を誇る。
歳をとるほどに病気と縁遠くなっているようで、足腰の衰えを補うため、ジムに通っているそうだ。
僕なんかより、はるかに健康なんじゃないか。

夕方に義父宅を辞し、すると三島あたりは帰宅ラッシュが予想される時間帯になっている。
ならばと思いつき、山梨にほうとうを食べに行くか、となった。
山中湖「小作」。全国に名の知れた、山梨限定「小作」チェーンの1店舗だ。

時々、無性にほうとうが食べたくなる時がある。
例えば年に一度だけ食すのを前提として、うなぎかほうとうのどちらにするか選択を迫られれば、僕は躊躇なく、ほうとうに軍配を上げる。
自分にとってほうとうは、奇跡に近い素材の取り合わせなのだ。

田舎みそを溶いた出し汁に、ジャガイモ・里芋、ニンジン・白菜、わらびやゼンマイにシイタケ、それとかぼちゃまでが煮込まれている。
そして主役は太くて平らで、ただ小麦粉を延ばして形を整えたような素朴な麵。しかし、スープと絡めば印象は一転。絶妙の舌触りに魅了されてしまうこと、請け合いだ。

一口すすれば口中に広がる、複雑にして深く、かぐわしいまでのコクとうまみ。これぞ、究極の田舎料理である。
途中で腹がふくれたとしてもなお、苦も無く平らげてしまうほどの魅力が、ほうとうにはあるのだ。
うまかった!今日も今日とて、めちゃうまかった。

ちなみに午後8時、山中湖の外気はわずか6℃。静岡であれば真冬のコンディションが、11月初頭にしてこの地を覆う。
10時に帰宅したら、清水の外気は17℃もあったもんね。2時間の走行距離にして、10℃以上も差があるのか。

寒い地で、心も体も芯から温まるほうとうを食す。この日は閉店間際まで来店客が引けも切らず、欧米人だけでも3組見かけた。
皆さん、もしかして近隣の県民よりはるかに、グルメな情報をお持ちなのだろうか。

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