捧げるは金のみ
11月30日。明日から師走だ。
この1年、ほとんど何も進展せんかった。勤め人時代なら、それでいい。トラブルはあちらから日々やってきて、対処するうち1日の仕事は終わっていく。
それが、楽だったとは言わない。(今思えば)抱え込む必要のない責任までを勝手に背負い込み、夢にうなされる夜を繰り返していた。
気楽になった分、時間は否応なく、早くに過ぎる。
最後のひと月に、ちっとは来年の展望が開けるようにしていかなくては。
今日は息子夫婦のウェディング撮影に付き添った。
実際の結婚式や披露宴ではなく、スタジオと野外で、格好だけの記念撮影を行うものだ。
5月の末に入籍して半年、このご時世では来賓を呼んでの本格的な式は開催しにくく、記録だけでも残しておけばと妻の進言があったのだ。
彼らも同じ思いだったらしく、夏の少し前、当てをつけたスタジオを訪れた。
過去のカップルのデータを見せられて、紅葉をバックに撮ったものが気にいたらしい。11月の終わり、ようやくそれが実現する運びになった。
全て終了した現在、このスタジオには良き点と悪しき印象の双方がある。
最初に訪問したときカタログを提示され、ベーシックなもので10万円程度との説明を受けた。
あら、思ったほどでもないのね。その日同行しなかった妻にカタログを見せ、彼らも気にいったみたいだから話を進めると報告する。
今月に入り、衣装や場所の調整のため再訪すると、なんだかんだで12~3万円はかかる見込みだ。
そのくらいはいいだろう。
本番当日、お金をおろすのでスタジオに電話をかけ、大体の見込みでいくら用意すればよいか問い合わせる。
15~20万円程度ですという返事。なんだ、聞いてよかった。それにしても徐々に値段が上がっていくなぁ。上限は最初の2倍か。
三保の松原で、富士山や神の道を背景に撮影。次にスタジオ近くの公園に移動し、お色直ししたうえ紅葉をバックに写す。
どちらも和装で、さすが専属スタイリストの手にかかると、見違えるほどの新郎新婦に仕上がっている。
雪を頂いた富士山は、まるで絵葉書のよう。小雨が降り始めた紅葉は、逆に情緒を高める手伝いをしている。
なかなかいいタイミングだったんじゃないか。
午後はスタジオで、様式のウェディング。セットの背景を変えながら、照明や自然光をうまく織り交ぜ撮影が進む。
15時前にはすべて終了。で、おいくら? 「25万円になります」。
おい、なら最初からそう言えよ。用意した分じゃ足らなくて、ワタシ持ち合わせの5万円でなんとか済ませた。
ここまで吊り上がるとたまたまじゃなくて、最初から想定した金額としか思えない。
従業員の数や施設と衣装にかかる経費から考えれば暴利とは思わないが、こういう後出しは、商いの道義としていかがなものか。
ウェディングという性質から、1度きりの取引が圧倒的だろう。
頼む側も一生に1度のことだからと、財布のひもが緩んでも致し方ない。なかなか抗弁できる場じゃないし。
最初に高いこと言って断られたくないから見積もりをぼかすのだとしたら、やっぱり感心はできない。
写真の出来はたいへん素晴らしく、実名でこのスタジオを紹介したいところだが、やっぱりやめておく。支払いは、反面教師に対する勉強代とあきらめよう。
ちなみに当事者は、とても喜んでいた。
なら、まいいか。